永久歯列期(大人の時期)の治療について

永久歯列期(大人の時期)の治療の考え方

体つきや顔つきだけでなく、心身の成長発育に伴い、口の中も永久歯への生えかわりがすすんできます。乳歯がすべて抜けた後には、あごの成長とともに12歳臼歯、親知らずが生えてきます。中学生や高校生では、永久歯列が完成した後もわずかながらあごや
顔面の成長が続いていきます。この段階で歯科矯正治療を行う場合には、残されたあごや顔面の成長を利用して治療を行います。



成長がほぼ終了した大学生や成人の方などは上下あごの位置関係や顔面骨格がほぼ完成しているため、あごを大きくしたり、
成長を促したりといった事はほとんどできません。
そのため、ほぼ完成したあごや顔面の形態やその周囲の筋肉や舌などの口腔周囲組織と機能的に調和した歯並びやかみ合わせを
構築すること目標として治療を行います。
(当然のことながら、『面長な人』と『あごがしっかりした人』とでは治療の方向性が全く同じというわけにはいきません)




また、永久歯に全て生えかわって以降の治療では、歯や歯ぐきが健康な状態でしたら治療内容は年齢にかかわらず基本的には
同じです。しかしながら、年齢を重ねるほど歯を動かせる量がやや少なくなってきます。



上下のあごの骨格的な不調和が大きい場合や、歯をとてもたくさん動かしたい場合は、外科手術を併用した治療や
矯正治療用インプラント(ピアス位の大きさのネジ)を用いて、より大きな効果を上げられるような治療を
お勧めすることもあります。

歯科矯正治療をスタートする前に・・・

むし歯や歯肉炎の改善、歯周病の治療・管理は当然必要!

思春期の中学・高校生や大学生・成人の方の場合には、生活習慣の乱れ等が原因でむし歯の多発や歯肉炎、歯周病が引き起こされ、
口の中の状態が非常に悪い場合がよく見受けられます。
その様な場合には、矯正治療の前にむし歯治療や歯肉炎の改善、歯周病の治療・管理が必要になります。
むし歯をなおし、歯肉の炎症をおさえ、歯石除去をすることは最低限必要です。


また歯科矯正治療を始める上で、心身の状態が健康であることは非常に重要です。矯正治療には、ある程度の期間と装置の使用、
煩雑で丁寧な歯みがきが要求される等、それなりの努力を要します。
そのため、人によっては少なからず心身に負担がかかる場合があります。
歯科矯正治療より、もっと別の事柄(例えば学業)を優先させたほうがよい場合には、そちらを優先的に行うべきであると考えられます。


ただし、しっかりと治療や歯みがき、その他治療に必要な事柄を頑張り、その結果、歯並びやかみ合わせが正しくなると、見違えるようにきれいに・良く噛めるようになりますし、ぐっと口元がひきしまってアンチエイジング効果が期待できたりもします。
当然、むし歯や歯肉炎、歯周病の予防にもなり、バランスの良い咬み合わせは全身の健康に繋がるため、口の中だけでなく、
心身ともにさらに健康になると考えられます。

正確に問題点をとらえることの重要性

歯ならびやかみ合わせの問題の原因は・・・  骨格の問題?  歯の生え方の問題?

永久歯列期においても、子供の時期の治療と同様に、永久歯のすき間不足やガタガタ等の歯並びの問題、出っ歯や受け口等の
かみ合わせの問題、うまく噛めない、口が閉じにくい、発音が悪い等の問題に対して最も大切なことは、これらの問題がどのような原因で生じているのかを正確に把握することです。


★骨格的な問題(前後・左右・上下関係)が原因なのか。
★それともの骨格的には問題が無いけれど、歯の大きさや生え方(前歯の傾きや奥歯の生えている位置等)が原因なのか


また成人やほぼ成長が終わった高校生以降の方の場合は、『あごが痛い、だるい、口が開きにくい、音がする』等の症状を
持っている場合が多いため、あごの関節に対しても精査が必要となります。

これら歯並びやかみ合わせの問題を引き起こしている原因を、正確に把握することが治療開始への第一歩となります。


上あごが出ている??  下あごが後退している??  上の前歯が出ている??  下の前歯が後方へ倒れている??


下あごが出ている??  上あごが後退している??  下の前歯が出ている??  上の前歯が後方へ倒れている??

あごの関節についてもその様相を正しく把握することが最も大切

下あごの位置や顎関節症について


ほぼ成長が終了した中学・高校生や完全に成長が終了している大学生・成人の方の場合には、あごや顔面骨格の前後・縦(上下)
方向・横(左右)方向の特徴(骨格的な傾向)の把握に加え、下あごの位置やあごの関節の状態も正確に把握する必要があります。


下あごは、あごの関節の存在により前後・上下・左右にある程度自由に動くことができます。
これら下あごの位置や動きは、口を開閉する筋肉や腱、歯などからの信号が脳へと伝達されるにより細かく制御されています。



一方で、下あごの位置は、歯並びやかみ合わせにより容易に変化してしまいます。この下あごの位置の変化により歯やあごに
負担がかかってしまい、あごが痛くなったり、顔の筋肉がこわばったり、口が開きにくい・閉じにくい、肩がこる、頭痛がする
、かみ合わせに違和感を感じる、歯が欠ける・割れる等、様々な症状が出てくることがあります。



このような症状は、小学・中学・高校生など若くて健康なうちは重篤な症状として出てくることはほとんどありません。
しかし、年齢を重ねることに伴う、お仕事や私生活でのストレス・疲れ、むし歯の治療や詰め物・被せ物の再製等による
かみ合わせの変化、歯周病など、何らかのちょっとした事柄が引き金となり、急に発症することがよく見受けられます。



当然、若いころからの癖(姿勢が悪い、ほお杖、うつぶせ寝、ねこ背、口呼吸、左右どちらかばかりで噛む、
歯ぎしりや食いしばり等)も原因のひとつとなっていることは言うまでもありまりません。



以上の事から、より効果的・効率的な歯科矯正治療を行うためには、治療を開始する前に
『下あごの位置やあごの関節の状態を的確に評価すること』
『下あごの本来あるべき位置を確認し、顎関節症等の治療の必要性の有無および歯科矯正治療開始が可能か否かの判断すること』
『適切・的確な治療の順序を検討・選択すること』
が必須であると考えられます。



ほぼ成長が終了した中学・高校生や完全に成長が終了している大学生・成人の方の治療の場合には、
子供の時期の成長を利用した治療とは異なる視点で問題点を捉える事が非常に重要であると考えられます。







どの症例も歯並びやかみ合わせにより下あごの位置が本来の位置から変化しています。(動きが制限されている)
このような場合には、下あごの本来あるべき位置および顎関節症状等についての精査が必須となります。



歯並びやかみ合わせ及び顔面骨格の形は、口呼吸やほお杖、うつぶせ寝や姿勢が悪いなどの悪い癖により多大な影響を受けます。
あごや顔面骨格の形は、皮膚や筋肉、舌といったやわらかい組織から受ける力により左右されます。
つまり、姿勢が悪い・ほお杖などの癖、慢性的な口呼吸などにより、体や頭・首、あごや顔面の筋肉にアンバランス
が生じてしまうと、あごや顔のゆがみが引き起こされてしまいます。
(# W.R.PROFFIT., CONTEMPORARY ORTHODONTICS, Graber TM., Orthodontics Principles and Pracices, Moyers., Handbook of orthodonticsより)

いつからでも治療をスタートできますか??

いつからでもスタートできますが・・・・・

ほぼ成長が終了した中学・高校生や完全に成長が終了している大学生・成人の方の場合には、いつからでも治療を開始することが
可能です。しかし、むし歯や歯周病、顎関節症の症状、お口の中の清掃状態が非常に悪い等、何らかの問題が認められ、
すぐに治療を開始することができない場合には、まず最初にむし歯治療や歯周病改善のための治療を行った後、
お口の中の状態が安定してから治療を開始することになります。



中学・高校生などであごや顔面の成長が残っている場合は、少しの間、成長を利用した治療を行なった後に、
歯並びやかみ合わせを治す、仕上げの治療へと移行します。



あごや顔面の成長の有無、下あごの位置やあごの関節の様相をきちんとに把握し、治療の計画をたて、まず何から開始すべきか、
適切・的確な治療順序をしっかりと判断することが非常に大切です。

外科手術や歯科矯正用アンカースクリュー(ネジ)を併用した矯正治療について

どんな治療になるの?

完全に成長が終了している大学生・成人の方の場合には、いつからでも治療を開始することが可能です。
しかしながら、上下あごの骨格的な不調和が大きい場合(あごのゆがみや受け口・出っ歯の程度が大きい場合など)は、
外科手術を併用した歯科矯正治療の適応となります。
また、骨格的には大きな不調和は認められないものの、出っ歯や受け口の程度が大きく、歯をとてもたくさん動かしたい場合、外科手術を併用した歯科矯正治療を回避したい場合には、歯科矯正用アンカースクリュー(ピアス位の大きさのネジ)を用いて、より大きな効果を上げられるような治療をお勧めすることもあります。



★外科手術を併用した歯科矯正治療とは??
上下あごの骨格自体が原因の受け口や出っ歯の方で、その程度が大きい場合、またあごや顔のゆがみが気になる場合など、上下あごの前後・左右・上下方向の不調和が大きい場合には、通常の治療の様に歯の移動だけでは歯並びやかみ合わせを治していく事が困難です。
大きな骨格的な不調和がある場合に、歯の移動だけで歯並びやかみ合わせの改善を無理やり行った場合には、歯や歯ぐきに大きな負担がかかるばかりか、治療後の安定性も非常に悪く、将来的にむし歯や歯周病などお口の中の環境が悪化してくるのに伴い、歯並びやかみ合わせも壊れてくる可能性があります。



そのため、このような場合には外科手術により上下あごの前後・左右・上下方向の不調和を改善することで、よりよい歯並びやかみ合わせを構築していく必要があります。



★外科手術を併用した歯科矯正治療には、保険が適用されます。
★ただし、外科手術を伴う歯科矯正治療だからといって、すべての医療機関で保険が適用されるわけではありません。
★保険の適用は、認可された医療機関(育成更生医療指定機関、顎口腔機能診断施設)での治療に限られます。




★歯科矯正用アンカースクリュー(ピアス位の大きさのネジ)を併用した治療とは??
骨格的には大きな不調和は認められないものの、出っ歯や受け口の程度が大きく、歯をたくさん動かしたい場合、外科手術を併用した歯科矯正治療を回避したい場合などには、歯科矯正用アンカースクリュー(ピアス位の大きさのネジ)を用いて、より大きな効果を上げられるような治療をお勧めすることもあります。
この治療法は、歯科矯正治療用につくられたアンカースクリュー(ピアス位の大きさのネジ)を顎の骨に埋め込み、これを治療に使用する事により、従来の矯正治療では不可能であった歯の動きを可能にし、外科手術を併用した歯科矯正治療の回避、非抜歯矯正の可能性の拡大、取り外し式装置が不要となる等、治療上で多くの利益を得ることができる治療法です。



歯科矯正用アンカースクリュー:歯ぐきから出ているのが、ピアス大のチタン製ネジで、右写真の様にバネやゴムを引っ掛けて使用します。



歯科矯正用アンカースクリューの拡大写真:治療後はすぐに撤去します。

治療後には後戻りを防ぐ目的の保定装置が必要

口呼吸や悪習癖が治療後の後戻りの原因となります!!

長い期間をかけて治療を行い、歯並びやかみ合わせが安定してきたら、矯正装置を撤去することになります。
しかし、それで終わりという訳ではありません。矯正装置撤去後、良い歯並びやかみ合わせを維持するための『保定装置』
が必要となります。


保定装置には取り外し式および固定式の物があります。これらは、治療前の歯並びやかみ合わせ、治療の内容、装置装着の協力性
など、いろいろな事柄を考慮し決定します。また、装置撤去後もこの保定装置の調整や経過観察のために来院していただく必要が
あります。ただし、来院間隔は、2・3カ月に一度、半年に一度、1年に一度という様に次第に長くなりますので、
治療中の様に毎月来院していただく必要はありません。





口呼吸やほお杖やうつぶせ寝、姿勢が悪い、爪かみ、唇を噛む・吸う等の悪い癖は、治療後の歯並びやかみ合わせに
多大な影響与え、後戻りの原因となります。


個々の歯の位置や歯列の形は、唇や頬部の筋肉・皮膚、舌の力やかみ合わせの均衡によって決定されます。
しかし、何らかの悪い癖により、これらの力の均衡にアンバランスが生じた場合、歯並びやかみ合わせの異常が引き起こされます。これにより、治療後の歯並びやかみ合わせがその影響を受け、後戻りしてくる事があります。
そのため、口腔およびその周囲組織に不均衡を引き起こす悪習癖はできるだけ早い時期に改善しておくことが重要です。



マルチブラケット装置(金属の装置)

”歯科矯正治療”と言えば、頭に浮かぶのがこの装置です。昔から今までずっと使い続けられている装置です。歯科矯正治療では、毎年たくさんの新しい装置や材料が開発・発売されています。にもかかわらず、この装置が長い間ずっと使い続けられている理由は・・・・・”治療上、非常に良い”ものだからです。装置自体も金属で汚れが付きにくく、汚れがついても落としやすい。装置が掛けたり壊れたりすることがほとんどない。ただし、昔よりも小さくなってはいますが、見た目の問題があります。

マルチブラケット装置(白い装置)

白い装置は、プラスチック、セラミック、人工サファイヤ等からできています。そのため、ひと昔前よりもとても小さく、目立ちにくくなっています。ただし、いくらか欠点もあります。汚れがつきやすく、汚れを落とすのに少し手間がかかること、欠けたり割れたりすることがあること、費用が少し高額であること。しかし、少し離れてしまえば、ほとんど目立たず、装置を付けていることはわかりません。

マルチブラケット装置(内側からの装置)

歯の内側に装置を付けるため、外見上はまったくわかりません。最近の装置は非常に小さくなったため、”舌が痛い””しゃべりにくい”等の不快感は幾分改善されてきています。欠点は、人によっては舌が痛いことや不快感があること、歯みがきが少し難しいこと、費用が高額であることです。治療自体は外側の装置をほとんど違いはありません。


ヘッドギア(夜間のみ使用する装置)

子どもの時期に使用するヘッドギアとは使用目的が異なります。大人の治療でこの装置を使用する場合は、奥歯の移動を防ぐ目的で使用します
永久歯を抜いてガタガタや出っ歯を治療する場合、歯を抜いてできた隙間に奥歯が移動してくると、その隙間が小さくなってしまい、ガタガタや出っ歯を十分に改善することができない場合があります。その様な事態を防ぐために、この装置で奥歯の移動を防ぐ必要があります。取り外し式の装置のため、きちんと使用すれば、それなりの効果が認められますが、きちんと使用しないと・・・ 『歯を抜いたけど、きちんとなおらなかった』ということが起こる可能性が出てきますので注意が必要です。夜間のみの使用ですが、できるだけ長い時間使用した方がより効果的です。

歯科矯正用アンカースクリュー
(ピアス大のネジ)

大人の治療の場合、寝るときにヘッドギアをすることができない、面倒くさい、忘れてしまう等、どうしてもきちんと使用できない理由がある場合は、歯科矯正用アンカースクリュー(ピアス大の矯正用のネジ)の使用をお勧めしています。このネジを使用することにより、歯を抜いた隙間に奥歯が移動することなく、ガタガタや出っ歯の改善を行うことができます。また、今までは外科手術を用いる必要があったケースにおいても、手術を行うことなく、治療することができるようになりました

保定装置(治療後に後戻りを防ぐための装置)

はりがねの装置撤去後には、後戻りを防ぐために取り外し式あるいは固定式の装置が必要です。これを保定装置と言います。治療前の歯並びやかみ合わせの程度にもよりますが、取り外し式では治療後半年程度は一日中、その後、夜のみ使用(約3~5年くらい)する必要があります。また、固定式の場合は、最低でも5年程度は装着しておいていただくようにしています。10年位~何十年と付き合ってきた歯並びやかみ合わせは、ほんの何年かの治療期間だけで安定することはありません。

舌や口の周りの筋肉の使い方の訓練 (MFT:MyoFunctional Therapy)

舌や口のまわりの筋肉(唇および顔面の筋肉など)正しく機能させるために、”舌や口の周りの筋力トレーニング”が必要となる場合があります。
舌や口のまわりの筋肉が弱くバランスが悪いと、出っ歯や受け口、開咬(前歯が開いている)等を引き起こすことがあります。また治療が順調に進まなかったり、治療後に後戻りしやすいことがあります。
このトレーニングにより、舌や口のまわりの筋肉の正しい使い方や動きを覚えていき、これを習慣化することで、治療後の後戻りを防ぎ、歯並びやかみ合わせの安定にもつながります。

筋力トレーニングには

★舌の筋肉を強くし、正しい使い方を覚える。
★唇や頬など、口のまわりの筋肉をつける。
★正しい舌の使い方や飲み込み方を覚える。
★日常生活の中で、トレーニングで覚えた舌の位置や唇の状態を保ち、正しい飲み込み方を習慣化する。

このようなトレーニングは患者さんごとに異なりますので、担当スタッフがメニューを決め、指導させていただきます。
また、ご家族にお願いして、お家でのレッスンも行っていただきます。
これにより、日常生活での『習慣化』が促進されます。





        舌の位置が出っ歯の原因のひとつでは??

      舌が下方にさがって位置しています。

通常、舌先は上の前歯の裏側付近に位置し、舌全体は上の歯ぐきの中に収まっています。写真では、舌先は下の前歯の裏側付近にあり、舌全体も下方に位置し、下あごの中に収まっています。つまり、舌が下方にさがって位置している状態です。これにより様々な悪い歯並びやかみ合わせが引き起こされます。